湯豆腐やポン酢明るく醤油昏く   野口る理

 こう言われてみるとそうだなと思う。たしかにポン酢は明るく醤油は昏い。たぶん、この句は「ポン酢明るく」という認識から始まっていると思われる。「ポン酢明るく」のために「湯豆腐や」があって、「ポン酢明るく」から醤油の昏さが言われている。
 ポン酢の「明るく」は、色んな要素から言われている。柑橘類の果汁で味が整えられていている味。湯豆腐に注いだときの色合い。CMで、唐沢○明がカツオのたたきからサラダまでぶっかける多様な用途。そして、「ポン酢」という音。
《うつくしくゆどうふすくふいきづかひ》(スピカ「冬の装置」2015-12)も、同じ作品群にあって、平仮名の表記が《湯豆腐やいのちのはてのうすあかり》を想起するが、「ゆどうふ」「すくふ」「いきづかひ」とHの脚韻が踏まれていて息遣いが聞こえそうである。

(スピカ「冬の装置」2015-12)より。