わたくしがわたし褒めつつ菜飯炊く  工藤玲音

かしこまった、わたしの総体としての「わたくし」が、今この瞬間を生きている「わたし」を斜め上からほめている。一人称「わたくし」と「わたし」の位相の違いが明確になった句として興味深い。自分が自分をほめるという構造でありながら、甘ったるいナルシシズムに陥らないのは、季語の「菜飯炊く」の影のない明るさゆえ。春の日常を、ひとりでも楽しく生きることのできる「わたくし」と「わたし」のコンビに、励まされる。

週刊俳句2016年4月17日号 10句作品「春のワープ」より。

スピカ今月号の「つくる」連載は、この句の作者・工藤玲音。写真とともに、自身の料理について毎日ひとつ、語ってくれる。