どれだけと言へぬ羽蟻のむらがれる  桂信子

一時期、何故か実家の洗面所に羽蟻が大量発生したことがある。我が家の虫担当の私は毎晩呼ばれ、それらの対処をしていたのだが、蟻ほど、一致団結して群れる虫はいるのだろうか。羽蟻が出ると家がつぶれるからと、昔誰かに言われたから、その時は随分心配したが、先日の大地震の際もつぶれなかったので、まぁ大丈夫なのだろう。羽蟻が群がるとき、そこにいるのは羽蟻だけではない。羽が生えていない蟻もいるのだ。しかし、蟻と羽蟻で違うのは、羽蟻は積極的に人間にのぼってくることだろうか。

 

「どれだけ」から始めることに、本当に恐怖するほどの量であることがわかる。むらがることがひらがなで記載されていることも、存在としての、まとまり感を失わせている。数を数えることをあきらめ、むらがる羽蟻に恐怖を嫌悪を感じながらも、冷静にその生物を観察している作者の視線を感じられる。

句集『草影』(ふらんす堂 2003年)より。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です