言うてみるもの夏鹿の肉貰ふ   茨木和生

〈言うてみるもの〉という入り方が楽しい。
「美味しそうやな~食べてみたいな~」とでも言ってみたのだろうか。
〈夏鹿の肉〉を貰った人のホクホク感。チャンスをしっかり掴むこの人。
何を貰っても、〈言うてみるもの〉とラッキーな気持ちになりそうなものだが、
〈夏鹿の肉〉ということによって、動物肥ゆる実りの季節、冬を目前に貯える秋を前に、
その死と引き換えに、その肉に喜ぶ人間の欲というものがいっそうあらわになる。
そして、〈夏鹿の肉〉とても美味しいらしい。言うてみたいものである。

『熊樫』(東京四季出版、2016)より。