山蛍よべのあらしに消えにけり   室生犀星

その前夜まで、山懐にいたはずの蛍たちも、昨日の夜の嵐で、吹き飛ばされてしまったのだろうか、今日は姿を見せない。嵐のあとの山が放つみどりの匂いは、蛍たちが姿を消したさみしさなどなかったかのように、強く、深い。

星野晃一編『室生犀星句集』(紅書房・2009年8月)より。犀星の句といえば「あんずあまさうなひとはねむさうな」「蛍くさき人の手をかぐ夕明り」あたりが有名だが、他の句も、あたたかいがゆえに切ない抒情にあふれていて、やさしい気持ちになれる。

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