2011年8月4日

熱帯夜あれは彼岸の音である  

 

「音」の怪異譚は多い。河辺で小豆を洗うような音が聞こえた、というので、それは「小豆洗い」「小豆とぎ」の仕業だろうと言われる。畳を叩くような音がすると、「畳叩き」、竹藪で太鼓が聞こえる「狸囃子」というのもある。

 

そのなかで「夜泣き石」の伝承は全国各地で語られているが、夜に石から泣き声のような音が聞こえる、というもの。泣き声は子どもだったり女性だったり、多くは死んだ人たちの恨みを伝える声である。

 

東海道の「小夜の中山夜泣き石」は、盗賊に襲われた妊婦の霊がのりうつった石とされる。赤ん坊は観音の助けでお腹から取り出され、成長して親の仇を討ったといわれる。この石は現在も静岡県掛川市に実在しているが、面白いことに寛政九年(1797)に出版された『東海道名所図会』にも紹介されており、当時から観光名所となっていた。

 

「音」は目に見えないだけに不気味なもので、なにか音がするとどうしても「何の音か?」と不安になる。「音」の妖怪たちはそうした問いに答えて語られたモノたちだが、一度語られ始めたモノたちは、はじめの不気味さを失っても生き生きと語られ続けるのだ。

 

参考.徳田和夫「夜泣き石」『日本伝奇伝説大事典』(角川書店、1986)