「第三回 小諸日盛俳句祭」体験記

7月29~31日の金土日、る理・紗希の2人は、第三回小諸日盛俳句祭に参加してきた。

第三回 小諸日盛俳句祭(夏潮HPより)

このイベントは、高浜虚子が明治41年8月に、一ヶ月間毎日行った句会、その名も「日盛会」にちなんだもの。第二次世界大戦中、虚子が疎開した地が小諸だったこともあり、俳人の本井英さんが中心になって、小諸市で開催されることになったそうだ。

週末の三日間、毎日、句会が行われ、午前中は小諸の吟行スポットへのバスなども出る。結社や協会の枠を超えて、俳句を楽しもうという、文字通り、「祭」なのだ。今年ですでに三年目、新鮮さも、練れてきたいい雰囲気もある。以下は、地元新聞の紹介記事。

 

小諸を巡り句をひねる「日盛俳句祭」(信濃毎日新聞)
取材を受けて、ちゃっかり記事に載っている、る理。

この記事では、日盛俳句祭の10の魅力を挙げて、報告としたい。
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①早起きは三文の徳―小諸をめぐるマイクロバス―

朝、俳句祭の受付にいくと、小諸の名所へと運んでくれる、マイクロバスに乗ることができる。

今年の行き先は三つ。

A 布引観音

B 浅間山荘

C マンズワイン&高原美術館

車が運転できない身としては、とてもありがたいサービスだ。

選んだのは、BとC。「浅間山荘」と聞いて、「あの」浅間山荘だと思っていたら、なんてことはない、「浅間山」の「山荘」だった。しかし、もちろんいいところ。馬を見て、霧をくぐって、登山口のさわりを歩き、カフェで甘酒(季語!)を飲んで、2時間をゆったり過ごす。観光ツアーと違って、行き帰りの足だけを用意してくれているため、たっぷりと自由に、俳句をつくる時間がとれるのが嬉しい。

 

②メインイベント、句会―結社を超えて―

この日盛俳句祭のメインは、なんといっても句会である。スタッフ俳人と呼ばれる俳人が中心となって、一般参加者の俳人と一緒に、句会を楽しむ。紗希は、このスタッフ俳人として参加。

午後13:30~15:30の二時間、投句は5句。

会場は多い日で6つ用意されている。一般参加者は、あらかじめ、どの会場で句会を楽しむか、事前に申告してある。そこへ、時間になると、スタッフ俳人がやってくる。参加者は、どのスタッフ俳人に当たるかは知らされていない。きてからのお楽しみだ。まさに一期一会である。

上は、土曜日の夜の懇親会での、スタッフ俳人一同の集合写真。

スタッフ俳人は、2~4人ひとくみで、それぞれの会場に振り分けられる。

ふだんは、結社や自分の仲間内で行うことの多い句会。

違う価値観に触れることで、俳句に対する考えがまた深まるのも楽しい。

 

③句会だけって、そりゃちょっとさみしいよね―懇親パーティー―

句会のあと、講演会やシンポジウムがあって、そのあと、一時間の懇親会が用意されている。

参加費千円で、軽食と、ビール、ワイン(信濃の地元の白ワイン、たいへん美味しい)、ソフトドリンクなどがいただける。

ふだんなかなか会えない俳人と、話をすることのできる、いい機会だ。

さて、誰が誰だか、わかりますか。パノラマです。

おばちゃまに囲まれる筑紫盤井さん。

小川軽舟さんとちゃっかり写真に映る生駒大祐くん。

小川さん、白いポロシャツにチノパンとは…素敵です。

④一日はまだまだ終わらない―夜盛会―

日盛俳句祭の夜な夜な、小諸の町のどこかで行われているという、夜盛会。

居酒屋で、お酒を飲みながら句会に興じる人たちのことを、そう呼ぶのだ。

もちろん、わたしたちもその一人。

深夜まで、夜盛会は続くのだった。

 

⑤ぶらぶらするのもよい、小諸のまちなみ

小諸は、城下町だったこともあって、古民家が多い。

また、地方の町ならではの、すこしなつかしい、昭和の匂いも残っている。

蔦におおわれたスナック夕子は、しかし、夜、電気がともっていた。

ナポリタン550円。

まさに 「蝋製のパスタ立ち昇りフォーク宙に凍つ」なり。

町のおにくやさん。「馬なまモツ」など刺激的な張り紙がならぶ。

手押しポンプなども。となりのトトロみたいだ。

長嶋有さんの句「手押しポンプの影かっこいい夏休み」を思い出す。

飲料にはできないらしいが、触るとひんやりつめたくて気持ちよかった。

小諸の町は、歩いていける範囲に、懐古園という立派な庭園(句をつくるのにいい)や、

虚子記念館(小諸での虚子のすまいが残っている)などがあつまっている。

マイクロバスで遠出するのもいいが、町を見て歩くのも、また発見がある。

虚子記念館の一角で、たらいに冷やされたきゅうりとトマトが。

のぞきこんでいたら、「食べていいんですよ」との声。

おみそとお塩まで出していただいて、かぶりつく。

トマトは甘く、きゅうりはみずみずしかった(どっちも食べたんかい!)。

 

⑥花の名前をとなえて―ゆるやかに同行すること―

ふだん、花の名前など頓着せず、むらさきの花があれば「むらさきの花」と書いてしまうわたしも、ほんとうは、この花がなんという名前なのかを知りたいと思っている。

マイクロバスで吟行に行くと、参加者俳人の方が、花の名前をあれこれ教えてくれた。「これなんだろうね」「これなんだろうね」と、る理・紗希がおうむがえしのような会話を繰り返していたのを、見るに見かねたのだろう。あれが釣舟草、これが松虫草、と、指差しながら、呪文のようにとなえる。

これが松虫草。思っていたよりずっと、おおきくてかわいらしい花だった。高原はすでに秋なのだ。

結社の句会の良さというのは、あるいはこういうところにあるのだろうかと、花の名を教えてもらう経験をして、羨ましく思ったことだった。

⑦句会のあとは学びも―有馬朗人講演「虚子の切れ字・虚子の採用した季語」―

毎年、句会が15:30に終わると、16:00から二時間弱、俳人による講演会が行われる。

今年は、有馬朗人さん。テーマは、「虚子の切れ字・虚子の採用した季語」の二本立て。

パワーポイントを使っての講演は、とても分かりやすく、また面白かった。

「虚子の切れ字」では、虚子句に、三大切れ字「や」「かな」「けり」がどの程度のパーセンテージで含まれているのかを分析し、4Sの500句選(4Sが自選)の「や」「かな」「けり」のパーセンテージと比較し、虚子は特に「かな」のパーセンテージが多いことがわかった。しかし、「小諸百句」時代には、いずれの切れ字もパーセンテージがすごく下がっている。「山国の蝶を荒しとおもはずよ」。戦後、「戦争によって俳句は影響を受けなかった」と述べた虚子も、時代の空気を敏感にかんじとっていたのではないか。そんな内容だった。「虚子の採用した季語」では、西山睦子著『「正月」のない歳時記』をベースに、虚子の海外詠・無季の句についての問題提起をした。

 

⑧土曜の宵はシンポジウム―「私にとって季語とは」―

金曜、有馬朗人さんの講演会があった時間に、土曜日は、スタッフ俳人によるシンポジウムが行われた。

テーマは「私にとって季語とは」。

なかなかヘビーなタイトルである。

パネリストは、今井聖・片山由美子・岸本尚毅・筑紫盤井各氏、司会は高柳克弘氏。

各氏が季語についてのみずからの考えを10分ずつ述べたうえで、討議へ。

この10分の基調報告に、多くの示唆が含まれていた。

討議では、作り手の側から、その志の問題を問う今井氏に対して、片山氏をはじめとする他のパネリストが、作品の上からその志を判断することはできないのでは、できあがったものはすべてなのでは、という作品論的な立場からの問いをなげかけた。これはまさに平行線。詳しくは、また別の機会で述べたい。

 

⑨挨拶してくれた?千曲川のかわせみ

日盛俳句祭自体は、金~日曜のイベントなのだが、る理・紗希は、前日の木曜日から、小諸にいた。せっかくだからということで、地元の旅館に泊まったのだ。中棚荘といって、島崎藤村にゆかりのある宿らしい。ホスピタリティもよく、温泉もいい湯。お料理も美味しく、利き酒セットなどたのみながら、二人の前夜祭をした。

その翌日の朝は、宿の仲居さんが「千曲川まで歩いて数分ですよ」と教えてくれたので、ちょっと歩いていってみることに。田園を横目に見ながら、雨の降りそうな空気のなか、道をくだっていくと、千曲川はあらわれた。

千曲川というだけあって、たしかにきゅっきゅと曲がっている。

夏鴨の親子が流れていくのなどを、ふたり眺めていたら、眼下の石に、さっと、青いものがやってきた。

「かわせみだ!」

もちろん、写真におさめるひまなどなく、一瞬、石に休んだかわせみは、またすぐ、上流へ向かってまっすぐ飛んでいってしまった。その青は、川の青とも空の青とも違う、鮮やかな色をしていて、どこまでも、紛れなかった。

小諸行

⑩楽しい時間は矢のように―さよならパーティー―

三泊四日って、おおがかりな旅行だと思っていたけれど、なんてことはない、満喫していたら、四日なんてすぐ過ぎる。

日曜日、最後の句会が終わったあと、祭のラストイベント、「さよならパーティー」へ。

まだ語り足りない人、ここで出会って別れを惜しむ人、私にもたくさんいた。

この会の目玉は、「短冊くじ」。

スタッフ俳人の書いた短冊が、会場の人にランダムで当たるという企画だ。

入場券の番号が呼ばれたら、あたり。

次々、当選者が出て、のこるはあと二人。

「次は、櫂未知子さんの短冊です」

あきらめかけていたところに、る理ちゃんの番号「22」が呼ばれる。

句は、「ああ今日が百日草の一日目」。ああ、いい句だ。

記念にツーショット…と思ったら、ちゃっかりうつりこむ寒蟬さん。

にぎやかなうたげに後ろ髪ひかれつつも、高速バス(なんと、新宿―小諸間は、3時間弱で片道2400円。案外と安くて近いのである)の時間となり、祭を去る。

来年も、きっと必ず開催するとのこと。

一年後に訪れるであろう、再会と、新しい出会いとに期待しながら、バスの座席で眠りについた。

(神野紗希・記)

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