味わったことがない体感を得るとき、人は死ぬのではないかという不安をかすかにでも感じる。眉根が暑いから死ぬのかと言われると、そんな大げさな。と思うところだが、満82歳までの句がおさめられているこの句集には、己の命・死に対する意識をよく感じる句が多数ある。この句の前句にあるのが
孤狼として死ぬほかはなし病む晩夏
である。この句は死よりも孤独に恐れを感じている句であり、死は堂々と受け止めるぜ的な句である。そんな句があると同時に眉根に訪れた暑さに死を感じるという、死に対する恐怖の大きさや、それに対する己の感じ方がよく変わる、とても人間くさい句集だ。
下五が「死神か」ということで、死神が見えず、本当に怖がっていることがわかる。誰も彼に大丈夫と言わなかったのか、誰が言おうとそんな言葉信用できないと思っているのか、どちらにしろ、彼の抱える孤独に切なくなる句である。
句集『愛痛きまで』(邑書林 2001年)より。