蜜豆をギリシャの神は知らざりき   橋本夢道

すべてをお見通しのようなギリシャの神様も、世界のかたすみ、この日本でいま生まれた、この蜜豆のことは、まだ知らないだろう。「ギリシャの神」を引き合いに出すことで、蜜豆のにぎやかで美しい在りようが華やかに引き出されているし、蜜豆を食べられないギリシャの神が、いつか嫉妬をしてきそうな、そんな楽しい想像も広がる。

 

銀座の汁粉屋「月ヶ瀬」で、蜜豆やあんみつを商品として開発・提供したのは、この夢道だった。それを祝した掲句が、宣伝のコピーにも使われたという。たちまちヒット商品となり、蜜豆はいまや夏に欠かせないお菓子となっている。

宇多喜代子・大石悦子・茨木和生著『旬の菜時記』(朝日新書・2009年3月)より。

見開き2Pに一品ずつ、旬の料理が取り上げられるという趣向の本。その料理を詠んだ一句とその解説、美味しそうな写真とレシピが読める。目にも楽しい。