蜘蛛落ちてゆくめつむりてゐるやうに  高浦銘子

自らの糸にぶら下がりながら、つーっと音もなく降りてくる蜘蛛。
その様子を「めつむりてゐるやうに」と、シンプルな比喩で切り取った。
目をつむったままで、体をまるごと地球の重力に預けて、落ちて行くときの不安と恍惚と。

第三句集『百の蝶』(ふらんす堂 2016年)より。
整った呼吸に柔らかな詩が紡がれる。夢を見ているような、心地良い浮遊感に身を委ねて、いつの間にか読み終わっていた、そんなゆたかな句集。

蓬生の巻のをはりを春の雨
花下に立ち草上に坐し水温む
うぐひすの声のをはりの夕焼けて
蜘蛛落ちてゆくめつむりてゐるやうに
金魚玉とほき木立を映したる
雲雀籠吊つてしばらくうとうとと
畳まれて眼玉ばかりや鯉幟
寒月のすきとほるまで話さうよ
笑窪あるはうが妹蜜柑剝く
かぎろひぬてふてふの道ひとの道
墨東に端午の星の出づるまで
手袋の手が触れてゆく夜の窓