青みかん幼なじみがレジを打つ  工藤惠

この圧倒的な地元感。

久しぶりに故郷に帰ってきて、スーパーか、コンビニか、ふと立ち寄った店で、幼なじみがレジ打ちのパートをしていたのだ。青みかんのなっているような田舎の職種のとぼしさが、まざまざと俳句に切り取られている。かといって、そんな現代を批評したいというわけでもないのが「青みかん」という素朴で健康的な季語から分かる。今年もまた青みかんがたわわに実をつけたり、幼なじみがレジを打ったりして、日常が繰り返される……それがありのままの故郷なのだ。

第一句集『雲ぷかり』(本阿弥書店 2016)より。

鶏そぼろ転がる春の夕べかな
日焼けした姉妹キューピーマヨネーズ
ハイボール碧く彼方にオリオン座
栞してちりめんじゃこと待ちぼうけ
チョコバナナ隣人今日はつけまつげ

鶏そぼろ、マヨネーズ、ハイボール、ちりめんじゃこ、チョコバナナ……庶民的な食材から、現代の低体温でドライな生活実感を詠んだ句が印象的。そのほかにも、惹かれた句をいくつか。

沈丁花夫婦並んで歯を磨く
白木蓮かかときれいな母でした
地図になき道を濡らしてゆく緑雨
秋刀魚焼くあなたのような子を産んで
学校は粘土の香り木の実降る
イカロスに翼白魚に醤油
心がこわれた天道虫が飛ぶ