掌に包む蜜柑のような言葉欲し   神野紗希

ただの〈蜜柑〉ではなく、〈掌に包む蜜柑〉なのだ。
掌という暗がりのなかで、灯るようにある蜜柑。蜜柑そのものはひんやりとしているけれど、掌の中で体温が伝わって少し温くなるだろう。手に馴染みおさまるその丸みは安心感があり、さらにその中にはみずみずしい果肉がつまっている。
短歌の上の句のような雰囲気もある途切れ方であるからこそ、この〈欲し〉さがより募る。他者から与えて欲しいという読みも、自分の内から掬い取りたいという読みもあるが、内外はどうでもよく、ただただそのような〈言葉〉が欲しいのだ。
〈言葉〉にもいろいろある。どんな言葉でもいいから欲しいのではない。
求め目指すべき理想の言葉を持ってこそ、言葉を尽くし続けられるのかもしれない。

「ユーカリにインコ」(2017.2)より。