椅子置けば部屋となりけり遠花火  櫂未知子

がらんとした気高さ。隣り合う贅沢と孤独。櫂未知子の句には一貫して、暗い火が燃えている。

掲句、タワーマンションのがらんとした一室を思った。
家具も何もない、ひろびろと冷たい空間。
そこに一つだけ椅子を置いて、大きな窓ガラスの向こうの遠花火を感じている。

椅子を置くだけで、そこに人がいた形跡、来るかもしれない期待が生まれる。それが「部屋」というものなのだ、という定義。「遠花火」の季語が、人の気配のみをまとった椅子の、生身の体との距離感や、熱や体温を期待する心を炙り出す。

6月末に出た待望の第三句集『カムイ』(ふらんす堂 2017年6月)より。