大青田怖ろしければ家を出ず  宗田安正

どこまでも広がる青田の風景を、健やかに感じ寿ぐのなら一般的な感覚だが、「怖ろし」くて「家を出」ないとは。でも、なんだか分かる気がする。一面の夏野や海を前にしても、畏怖の感情はおこるが、それは単純に、人間の手の及ばない自然に対する畏怖だ。でも、どこまでも広がる青田の風景は、人の手によるもの。自然と人間との共同作業によって広がる、一面の大青田に、人間の動物的習性とも執念ともいえるものが体現されているようで、それに対しての「怖ろし」なのでは。家を出ないでひきこもるのも、またよし。世界を知らないからではなく、世界を知っているから、家を出ないのだ。

句集『巨人』(沖積舎 2016)より。