古酒一壺虚無の花びら降りつもれ  長谷川櫂

「古酒一壺」の、この壺の中にすべての世界があるという感じ。李白をはじめ、酒を愛した漢詩人的世界観を、色濃く引き継ぎつつ、沖縄の古酒(クース)を詠みあげた句だ。この句を末尾に置く10句作品すべてが、古酒(クース)を詠みこんでいる。そのかぐわしき一口を花びらにたとえ、ひとたび含めば美女や人魚があらわれ、魂がバラ色の炎とともに眠る……漢詩にするとよさそうな内容だが、一句一句単体として「かな」の切れ字を多用し立たせながらの連作となると、連句的な意外性を求めたくなり、10句全体が予定調和に感じられる。美しすぎるのかなあ。「虚無の」も、分かるけど、分かりすぎる。虚無と気づかず、ただぼうっと、花びらに埋もれていたい。

「俳句あるふぁ」2017年12月・1月号(毎日新聞出版)より。創刊25周年記念特別号。