2017年11月19日

ただそこに青山のある寒さかな

昨年11月19日の夜、父が亡くなった。享年60歳。2年前に、鼻腔の奥、右目の裏側に見つかった癌が原因だった。父は緩和ケア病棟の一室で、私達家族が見守る中、静かに息を引き取った。

冷えた手を載せれば掴む手であつた 佐藤文香『君に目があり見開かれ』

「すまない…」
どんなに歯を食いしばっても、その言葉だけが頭の中で何度も繰り返されて涙が止まらなかった。今でも時折、父を思い出すと、その言葉と涙があふれることがある。

ヒヤシンス不器用に生まれてしまつて 宮崎莉々香 スピカ「君が死んでも街だよ」

誰よりも家族を大事に思い、子供達の成長ぶりを楽しみにしていた父だった。まだまだ生きて私や姉や妹、親戚等がどんな人生を歩むか、自分の目で見たかったに違いない。しかし、それももう叶わない。出来の悪い息子ですまなかったと謝ることしか、私はできない。

余寒なほあしたの夢で待つてゐます 関根かな スピカ「三月来」

「お前は××だ。だからお前の俳句だって××じゃないか」
父にそう責められたこともあった。
「俳句はお前の青山なんだから、大事にするんだ」
そう言われたこともあった。
どちらも有難かった。その言葉があるから、今も泣きながらこうして俳句と向き合っている。
青山、死に場所としての俳句と共に、私はこれからも父に謝り続ける。