夢の世に葱を作りて寂しさよ   永田耕衣

すべすべとした真白な芯を持ち、切り口はとろとろと柔らかな長葱を思いたい。
「夢の世」や「寂しさ」といった観念的な言葉を使いつつも、
「葱を作」るという身体的で実感のある言葉で焦点を作り、一句として成功させている。
夢の世のやるせなさと、それをも愛する思いを感じさせ、
ひいては現世とはなにか、ということをも考えさせる一句である。

『永田耕衣 秋元不死男 平畑静塔集 現代俳句の世界13』(朝日新聞社、1985)より。
『澤 8月号』にも読み応えたっぷりの「永田耕衣特集」が組まれている。