真っ白な水仙に歯を立ててみたい   清水栄里

真っ白な水仙だからこそ、傷つけてみたい。爪でひっかくとか、足で踏むとかではなく、「歯を立てる」。水仙の味が、じわっと口の中にひろがりそうだ。やはり草の青い匂いがするだろうか。「~してみたい」でとめてあるところも、この句の場合はいい。歯を立ててしまえば、すでに真っ白な水仙は失われてしまい、読者が「歯を立ててみたい」と思うことはなくなってしまう。歯型のついた水仙には、やはり魅力を感じない。真っ白な水仙に歯を立てる想像をするからこそ、新鮮なエロスが感じられるのだ。

幸田高校文芸部の部誌「文芸幸田」第18号(2011.3)より。俳句の良さは世代を超えて同じ土俵に立てることにあるが、一方で、同世代の濃密な空間もまた、己の句を強くたくましくするだろう。他にいくつか。

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