飛騨の美し朝霧朴葉焦がしのみことかな  高柳重信

み 朴 美 飛
こ 葉 し 騨
と 焦 朝 の
か が 霧
な し
  の

読みは<ひだのうましあさぎりほおばこがしのみことかな>。多行書きの俳句だ。「朴葉焦がしのみこと」がかわいい。朴葉焼をイメージするので、「美し朝霧」も、ほんとうに美味そうだ。多行形式で書かれているので、視覚イメージに特化しているのかと思ったら、口に出して舌にのせてみても、とても快い調べである。作品のすみずみにまで、重信の構成力が発揮されている。

『山海集』(昭和51 冥草舎)より。このころは、初期のカリグラムへの挑戦などは身をひそめ、四行形式に落ち着き、もはや多行形式も、新しい型といった風格をそなえている。

「ユリイカ」2011年10月号では、現代俳句特集がくまれている。私も、高柳重信の多行俳句についての論考と、10句作品を寄稿した。特徴的なのは、執筆者の人選が、既成俳壇のそれとは大きく異なる点だ。半分ほどは俳句外の書き手(作家や批評家など)が俳句について語る。俳人からの参加も、池田澄子・宇多喜代子のほかは、若手の俳人だ。外部から、あるいは辺境からは、現在の俳句がどう見えるか。それこそが俳句の姿、かもしれない。