薔薇喰ふ虫聖母見たまふ高きより   水原秋桜子

「大浦天主堂は修理完く成り、石階上に日本聖母像を仰ぐ。
 階下に僧院あり、薔薇、罌粟など咲けるが見ゆ」と前書き。

聖母像の視線の先に、虫がいて薔薇を食べているという、静かな時間。
薔薇にいる虫から、だんだんとズームアウトされていく言葉の流れがあたたかだ。
また、この「虫」は、人間のメタファーとも読めるであろう。
我々が行動するすべてを、聖母が見守っているということは、
単純に安心感ばかりでなく、常に正しい選択を迫られている緊迫感もあるだろう。
それでも「見たまふ」という言葉づかいで、聖母の慈愛とそれに対するありがたみがあふれる。

徳田千鶴子編『水原秋櫻子句集 群青』(ふらんす堂、2011.9)より。