触れもせで春の風邪だとのたまへり   菊田一平

熱が出て頭も痛くて喉もガラガラで・・・とこちらはダルい体で訴える。
それなのに医者はこともなげに、それなら「春の風邪だ」と言う。
触れれば分かるわけではないが、触れもしないで何が分かるのか、とダルい体で思うのだ。
この「のたまへり」に、尊敬語であるがゆえのどこか皮肉めいたものを感じてしまう。
「春の風邪」だからこそ、メランコリックな気分がすみずみまで味わえる。

『百物語』(角川書店、2007)より。