角川一族冬至南瓜を煮てをりぬ   角川春樹

「角川一族」とは、角川書店創業者の角川源義の家族のことであろう。
この句の作者である春樹は、その息子だ。
さまざまな出来事があったであろう角川家の渦中にいた人が作った一句。
「一族」という重みのある言葉と、南瓜のやわらかな色合いが対比され奥行きが生まれる。

ここで、「角川一族」をどう読むか、ということが問題とされやすい。
源義、春樹、角川家にまつわる諸々を知らずともこの句を味わえるかどうか、ということだ。
もちろん知っていたとしても、たとえば、南瓜の煮物は大嫌いな食べ物だったかもしれない。
そこに南瓜があるということは知ってしまっているが。(ここも疑いだせばきりがないのだが)
強引ではあるが、つまり、読者が句の前提のすべてを知ることは不可能なのだ。
それを、さも知っているかのように読んでしまうことこそが、危険である。
全部知ることはできないし、全部知らないこともできない。
そのことを、読者として、私は、意識していたいと思う。

『角川家の戦後』(思潮社、2006)より。