うつむいて膝にだきつく寒さかな   夏目漱石

座っていて、自分の膝に抱きついている格好。
いわゆる、体育座り・マット座り・三角座り、と呼ばれるポーズか。
この座り方の言い難い寂しさ。ちょっとやってみていただきたい。(しかも「うつむいて」!)
膝抱いている、ではなく「膝にだきつく」という表現が、切実である。
寒くなってくると人肌恋しい季節になるというが、
自分で自分を抱きしめていることの充足感ゆえの寂しさ。隙のない苦しさ。
人を遠ざけるような「かな」の切れ字に、三角に折りたたまれた人間の体がまた冷えてゆく。

坪内稔典・中居由美編『漱石・松山百句』(創風社、2007)より。