ちよつといい豆腐を買つて木枯しへ  津久井健之

木枯らしの中、「ちよつといい豆腐」を買って帰る。寒いけど、からだを丸めるけど、でも、安物じゃなくて「ちよつといい」ところ、こころが少しあったかい。それこそ「ちよつと」ふんぱつしたのだ。いい豆腐を買うのが日常であれば、わざわざ「ちよつといい豆腐」なんて、わざわざ言わない。帰ったら、きっと湯豆腐にするのだ。ああ、分かる。

連日にひきつづき、『俳コレ』より。学部時代、早稲田大学の俳句研究会に出入りしていたのだけれど、津久井さんは、そこの先輩だった。ある日の句会で、この豆腐の句が出てきた。これだと思って特選にとったその句と、アンソロジーのなかでまた出会える喜びは存外。先日の、俳コレ出版記念パーティーで、その話をすると「とってくれたよね、覚えてるよ」と津久井さん。「ぜったい、男前豆腐だと思ったんですよ!」というと「あ、それね、男前豆腐だったのよ」と明かしてくれた。

先日、haiku barで、「いちご飴」の句が出てきたのを「ぜったい、サクマのいちごみるく飴だ!」といいはったら、作者が「実は、サクマのいちごみるく飴のこと詠んだんです」と。こういうシンクロは嬉しい。一緒に生きてるって感じがするからかな。

ほか、津久井健之さんの作品から、いくつか。

春光のあつまるところ和紙を売る
ものの芽と安全ピンの光り合ふ
秒針のかがやき進む黴の中
鼻すぢはこはさずに泣く涼しさよ
白息の消えて鉄棒残りけり