回送電車をしばらく降りずクリスマス   大石雄鬼

クリスマス、どこへ行ってきた帰りなのだろうか。このひとはたぶん一人。電車が終点まで着いて「この電車は回送電車になります」のアナウンス。次々に降りていく人たち。でも、なんとなく、降りがたくて、「しばらく降りず」車内にぽつんと座っている。さみしいけれど、なんとなく、満たされている気もする。不思議な感覚だ。クリスマスの辺境とは、たとえば回送電車の車内。

回送電車になる電車のともしびも、聖夜の灯。『大石雄鬼俳句集』より。