白鳥の声ずぶぬれに冬日向  嵯峨根鈴子

先日帰省した際に、空から降る低い声に見上げると、白鳥が群れで飛んでいた。それがどっちの方に向かっているのかわからないが、こういったことは高校までよくあったので、白鳥の声のなつかしさを、独特のあの低さをこの句を読んで思い出した。白鳥がいる時点で冬なのはわかるので、冬日向は言い過ぎかなと思うが、作者のいる場所には水辺で日向ぼっこをしている白鳥も晴れた空へ飛び立つ白鳥もいるのだろう。低く震えたその声に、濡れ感を確かに感じる。

句集『ファウルボール』(らんの会 2011年)より。