けしきのなかを牛売りにゆく牛買いにゆく  阿部完市

牛を売るといえば、「ドナドナ」を思い出すが、この売りに行く人は、手で牛をひいているのだろう。けしきをひらがな表記したことで、田舎のゆっくりとした時間の流れが見える。「牛買いにゆく」と「牛」とあえて言ったことで、行動は「売る」と「買う」で重なっていないのに、句にリフレインが生じていて面白い。売るのに買うというその矛盾にあまり納得いかないが、明るくも暗くもない句だなと思う。

句集『水売』(角川書店 2009年)より。