スープひと匙初雪ですよお父さん  米澤光子

病床の父に、匙でスープを飲ませてあげている。窓を見たら、外はいつの間にか初雪。「初雪ですよお父さん」と呟く声を、呼びかけられた当の本人は、理解しているのだろうか。「お父さん」と声をかけているふうでありながら、ひとり言のようでもある。
「お父さん」という呼び方から、なんとなく義父だと思った。夫の父を介護する日々。呼びかけたことばが、そのまま俳句になった。冒頭に置かれた「スープひと匙」が尊い。

結社誌「火星」2012年3月号より。