美しく木の芽の如くつつましく  京極杞陽

「~く」と、形容が三つ並んでいるのみの句で、何が・どう「美しく木の芽の如くつつまし」いのかは、まったく示されていない。楚々とした女性のことか、夫妻の生活の在り方のことなのか。それとも「如く」といいながら、実は木の芽のありようを描写している句なのか。こういう句の意味は、はっきり分からなくてもいい。ただ「美しく木の芽の如くつつましく」と呟いていると、なんとなく明るい気持ちになれる。
「美しく」「つつましく」という、割合に同質なふたつの形容詞のあいだに挿入される、「木の芽の如く」という不可思議な比喩が、この句の新鮮さを今迄支え続けている。「木の芽の如く」なんて素敵じゃないか。身を固く、若々しく香り立ち、必ず芽吹く。

ふらんす堂ポケット文庫 山田弘子編『京極杞陽句集 六の花』(1997年12月)より。