銭湯で上野の花の噂かな   正岡子規

いろんな人が集まる「銭湯」。もうお花見をした人もそうでない人も集まってくる。
「噂」という言葉から、実際に見たのではなく想像が膨らみ、それが伝染する楽しさが感じられる。
日本の風景が描かれがちな銭湯の壁画にも、桜が咲いているのだろう。
ざばざばと湯を溢れさせながら、上野の花にみんなで思い巡らせているほのぼのとした景である。
翌年の明治29年には「寐て聞けば上野は花のさわぎ哉」(前書きに「病中」)という句となる。
元気でいても臥せっていても、上野は変わらず花の盛りを迎えるのだ。

高浜虚子選『子規句集』(岩波書店、2011)より。