櫻見にひるから走る夜汽車かな   八田木枯

昼から夜へ抜けていく、静かな夜汽車。
擬人法として、夜汽車が誰も乗せず勝手に走っていくような童話性がある。
「ひる」とひらがなにしたことで、昼、とも違う世界から出かけていくようだ。
硬質な夜汽車と、やわらかな桜の色や香りの対比があざやかで、
日常と非日常のようでありながら、その間を行き来する言葉としての一句。

『夜さり』(角川書店、2004)より。