海の怒りも知らずに牡丹に虻一つ   安井浩司

怒涛の海の青さと華やかな牡丹の色があざやかで、虻の羽音と波の音が共鳴しているようだ。
勢いのある文体から、ぽつんと置かれるように下五が来ていて、一句の中に激しい場面展開がある。
虻や牡丹だけではなく、きっと誰も海の怒りなど知らない。
それでも世界は変わらないのだけれど、でも、やはり、変わっていて欲しいような思いもある。

「特集 安井浩司 〈存〉のアポリアを超えて 安井浩司直筆 解説:菊井崇史」 (『IOB 創刊号』2012.3)より。