揺り椅子をゆらさないでよ春の闇  岩淵喜代子

まるで春の闇が揺り椅子を揺らしているような錯覚に陥る。口語で「ゆらさないでよ」と言う軽さに対し、春の闇で重たく閉じている句だ。揺らしているのは一緒にいる人か、春の闇か。どちらにしろ、揺り椅子に座っている作者は、眠りに落ちていきそうなのに、椅子を揺らされることで、少しうっとうしそうに、不機嫌な作者の顔が思い浮かぶ。けれども、それがあまり深刻にならないのは、口語にすることで軽くしているからだろう。

句集『嘘のやう影のやう』(東京四季出版 平成20年)より。