飛び込みのもう真っ白な泡の中 神野紗希

 高い飛び込み台から、水面めがけてジャンプする。そのあとの着水の一瞬を、「真っ白な泡の中」と印象鮮明に切り取っている。

「もう」の一語がよく働いている。飛び込み台に立ち、ジャンプし、落下し、着水するという一連の動作を逐一言葉にするには、俳句は短すぎる。それを「もう」の一語によって途中経過を省略し、飛び込み台の上と着水の瞬間という最初と最後のイメージをただちに結びつけた。離れ業の「もう」である。また、落下のスピードへの驚嘆も、この「もう」にはこもっている。

 当初は他人を詠んだ句と受け取っていたが、繰り返し読むうちに、作者自身の体感と受け取った方が臨場感が出て面白いことに気づいた。元気のよい作者のことだから、高い場所もいとわず、果敢に飛び込みに興じたことがあるのかもしれない。