朴ひらく明るい雨が顔に散り  岡本眸

朴の花が咲いている。仰いでいたら、明るい雨が顔に散りかかってくる。
この順番で書くことで、作者が、まずは朴にひきこまれているという臨場感が伝わってくる。
「ひらく」「散り」がいずれも丁寧な描写だ。「ひらく」は朴の花びらの厚さをみせてくれるし(まるで扉のようだ)、「散り」は、ぱらぱらっと降ってくる雨の感じを言い当てている。朴やほかの木々に当たって、雨の粒がより細かくなっているのかもしれない。

『午後の椅子』(平成18年・ふらんす堂)より。

「俳句」最新号(2012年6月号・角川学芸出版)の特別企画は「平成の蛇笏賞作家たち」。平成19年受賞作として、『午後の椅子』の20句抄と小文(加藤かな文による)も掲載されていた。そこから引用。

「温めるも冷ますも息や日々の冬」と言った句も好きだが、「息は温めることも冷ますこともできる」というところが、ちょっと教訓めいて聞こえることもある。私は、ロジックではない、自然体の姿がそのまま言葉で写し取られている掲出句のほうに、より惹かれる。