冷房の下着売場の白世界  草間時彦

夏、冷房の効いたデパートの店内の一角。下着売り場は、白い下着が多いからか、白世界に見える、というのだ。冷房の冷たさを、白という色が代弁しているし、「白世界」という言いなし方も面白い。

「○○世界」の○○に色が入るパターンというと、水原秋櫻子の「滝落ちて群青世界とどろけり」を思い出す。それを踏まえて読むと、なおこの句が面白くなる。「群青世界」が壮大な滝であるのに対して、「白世界」は売り場の下着たち。聖と俗、自然と人間、先行句との対比が効いていて、くすっと笑える。

ひとつひとつの下着を手にとってみるわけでなく、なんとなく遠巻きに下着売り場を見ている感じがするのも「白世界」と、全体を漠然とした色で括っているからである。作者が男性なのも裏付ける。恥ずかしくて、近くへは行かないのだ。

「俳句」最新号(2012年6月号・角川学芸出版)、筑紫磐井氏の特別寄稿「『俳句』60年を読む」第二回の引用から。そういえば、最近、あまり草間時彦の名前を聞かない。