本物の種が入つてゐるゼリー  金子敦

ゼリーを食べていたら、歯に、小さな果物の種が「がりっ」と当たった。そのとき、とても自然のものとは思えない色彩・形状のゼリーが、しかし「本物」であることにふと気づく。ふつう、ゼリーにするときには種を取り除くから、小さな種が残っているのは、ぶどう、いよかん、あたりだろうか。さくらんぼでもいい。ゼリーの「本物」感に、驚き、がぜん嬉しくなる。今、目の前にあるものが「本物」であることを実感する喜びは、こと現代においては、何物にも代えがたい。

金子敦句集『乗船券』(ふらんす堂・2012年4月)より。そのほか、技術が透明感を濁らせていない句に惹かれた。

北窓を開けて便箋買ひにゆく
囀りやくるりくるりと試し書き
三月のひかりの色のメロンパン
海上の虹を見ている測量士
木の椅子の年輪うすれ鳥渡る
スポイトにしがみつきたる子猫かな
夕虹やまだ濡れてゐる母の墓
月光がピアノの蓋を開けたがる
うそ寒や卵の殻に残る水
栗少しずらしてケーキ食べはじむ
春宵の〆の杏仁豆腐かな
流星やゲーム画面に地平線