鬱ですかおたまじやくしをあげませう  近江満里子

おたまじゃくしをもらったら、鬱が治るんだろうか。あんまりそんな気はしない。でも、黒いのがぴこぴこと跳ねているのを見たら、「ああ生きている」と思ってうれしくなるだろうか。頭の中がもやもやぐるぐるとしているときの感覚って、水の中でおたまじゃくしが群れて残像のようになっている感じと、こういわれてみれば似ている気がする。

『微熱のにほひ』(ふらんす堂・2012年5月)より。膠原病とたたかう日々を直接的に書いた句もあるが、私は、以下に挙げるような、概念から自由になっている句に魅力を感じた。母もふきのとうも兎も、制限されていて、かつ自由だ。

春隣日差しの透ける猫の耳
郷土誌が棚に三冊夏の茶房
眼球の拡大写真花吹雪
小倉かき氷硬貨を全部出す
ふきのたう母のぬりゑの色淡し
あたたかや形見とおもふこの病
鏡台に兎の糞が落ちてゐる