口紅の赤と十年日記買う  森田智子

「十年日記」という代物を、いつも異界のものとして眺めている。不精者のわたしには、十年のあいだ日記をつけ続けるということが、想像つかないのである。この人は、十年日記とともに、赤い口紅を買っている。十年日記をつけられるほど意志が強い人だから、口紅も、ベージュやピンクではなく、きっぱりとした赤だろう。
そして、口紅は、もうずっと同じブランドの同じ色を使っているのではないだろうか。自分のスタイルが出来上がっている大人の女の匂いがする句だ。

「赤い口紅」ではなく「口紅の赤」であるところが、単なるリズム合わせにとどまらず、赤にこめられた意志の強さを感じられる語順になっている。第四句集『定景』(邑書林)の末尾に置かれた句。