滝の上に水現れて落ちにけり   後藤夜半

もちろん、滝は水で出来ているのだが、その水の上にまた水が流れてくると、それはもう同じ水ではない。
「滝の上に」ともたもたとした上五から始まり、滝のまだ滝ではないところを見せ、
すうっと突如現れる「水現れて」という中七、「て」という措辞で一拍置いて、
ダーッと流れ落ちていく「落ちにけり」という下五。滝壺には「水」がたくさん。
もうその「水」には会えないけれど、水自体は絶えず、滝の上に現れ落ちるのだろう。
この一句自体がまさに、「滝」そのものなのである。

後藤比奈夫編『後藤夜半句集 破れ傘』(ふらんす堂、1994)より。