からうじて人間でゐる油照り  近江満里子

盆地の夏は暑い。大学生活は京都で送ったのだが、その暑さは尋常ではなかった。溶ける溶けるとよく言ったものだが、そんな感じだろうか。もう人間らしさを失いそうなほどの暑さ。あまりに私が溶けるというので友人が「溶けるならあそこでな」とドブをよく指した。

かろうじて残っている人間らしさは、きっとすでに人間らしさを失った部分も人間に戻れるキーになる。形状記憶型ではないが、人間は記憶というものを大切にしているから、きっとすぐにもとに戻れると思っている。その自信があるから、すぐに人間らしさをほぼ失う状態になれるのだろう。

句集『微熱のにほひ』(ふらんす堂 2012年)より。