炎天や舌にすひつく銀の匙  大井さち子

氷をさわっても同じ状態になることがある。冷たいものが人にふれるとき、なぜくっつくのかわからないが、かき氷でも食べていたのだろう。暑くて暑くて救いを求めるようにかき氷を口にしたら、かき氷にささっていた銀の匙が一瞬舌にくっついた。幸い、口中のことだから意識して熱を発すれば大して苦労することなく離れる。
けれどもくっついた瞬間は「ひっ」と思うだろうし、多少焦る。一瞬にして冷や汗も出るし、ちょっとしたパニックだ。意としない形で涼んでしまった作者の姿に、和む。

句集『秋の椅子』(邑書林 2009年)より。