梅雨の家インクを使ふ子が殖えて 京極杞陽

ふらんす堂「こどもの一句 365日入門シリーズ」(2010年)より引いた。
『但馬住』(昭36)より抜粋されている。
  
クーラーも当然ない時代であろう。
梅雨のむしむしした空気に充満する匂いが容易に想像できる。
容易に想像できる。と言っても、普段インクが必要な筆記用具を使用しないし、万年筆も私が使用するのはカートリッジ型なので、インクと言われてもあまりピンとはこない。
それでも、インクの匂いに勝手ながら郷愁を抱いてしまうから不思議だ。
 
いつもは、自分の周りだけに匂っていたのだろう。
それがある時家じゅうに広がっていることに気付いた作者は自分のこどもがインクを使用するほど成長し、また、戦後十数年経ち、こどもがインクを手にできるほど世の中が豊かになってきたことを知るのだ。

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