麻服や東京は来るたびに雨  市川葉

麻服は涼しいけれど、すぐ皺がついてしまう。それでも、用事があって地方から東京に出てくるときには、おしゃれをしたい。そんな麻服が、雨の空気の中で、なんとなく湿ってくる感覚も伝わってくる。「東京は来るたびに雨」というフレーズを立たせるための季語として、するりと入り込んでぴったりとはまった「麻服」。取り合わせをするときに、植物や時候などのある程度イメージの離れたものではなく、あえて着ているもの、ぐっと近いものを組み合わせた。そのことで、取り合わせの形なのだけれど、一物仕立てでもある、一語一語の結びつきの強い句になっている。

『市川葉集』(ふらんす堂・2006年9月)より。平成元年の作、自註あり。

麻服の座り皺を気にしながら電車を下り、これからの楽しい半日に心がはずむ。でもどうして東京というところは私の来るたび雨なのだろう。大丸で傘を買わねば。

「大丸で傘」なんて素敵だわ。それがまた、次の俳句を呼んできてくれそうな。