茄子の馬膝といふもの無かりけり   伊藤伊那男

「茄子の馬」は、お盆の時期に準備し飾るもので、
胡瓜や茄子に割り箸などの脚を刺して馬とし、その馬は死者の魂を乗せ帰ると言われている。
その馬に「膝」がない、という。まっすぐで簡単な割り箸の脚だから当然ない。
ただ、その馬には、膝だけでなく蹄も尾も目も口も内蔵も、あらかたのものがないはずだ。
その中でも「膝」を気にする心は、どこか可笑しくもあり、
また、膝を使って少しでも早く故人を連れて帰ってきて欲しいという思いも感じられる。

『知命なほ』(角川書店、2009)より。