神野 さて、一週間後の8月17~19日、愛媛県松山市で俳句甲子園が開かれます。高校生の俳句大会として同地で毎年夏に行われていて、今年で第十五回を迎えます。
神野 ○○甲子園のなかでは、わりとはしりのほうかな。5人1組でチーム選で戦います。赤チームと白チームに分かれて5対5で試合、お題にあわせて作った俳句を先鋒、次鋒、中堅…と剣道のように句合わせしていって、さきに勝ち越したほうが勝ち。その中で、互いの句に対してディベート、つまり批評しあうという要素が入っているのが、特に従来の俳句大会と大きく違うところでしょうか。ここにいる人は、る理ちゃん以外は、俳句甲子園に出場したことがあるんだよね。
野口 そうですね。
神野 ええと、村越くんが1、2、3年生と3回出て、由穂ちゃんは1年生と3年生の時の2回、高崎君は2年生の時に1回出たのかな。
高崎 そうですね。
神野 高崎君の出身校の愛光は、3年は出られないんだっけ。
高崎 はい、部活動禁止なので。
神野 私は、2年と3年で2回出たな。
野口 ええと、どうでしたか?
高崎 漠然としすぎですよ。(笑)
村越 ざっくりきましたね。(笑)
神野 そうだね(笑)。俳句甲子園に出てみて、楽しかったですか?
高崎 そりゃ楽しいは楽しかったですよ。
千倉 はい、飛行機乗れたし。
神野 飛行機がポイントか。(笑)初めてだったの?
千倉 そうです。飛び立つときにみんなでこう手をつないで。すごくドキドキしました。
神野 可愛い話。(笑)
野口 俳句甲子園ではないけどね。(笑)
千倉 でも、飛び立った瞬間、先生が「はい歳時記出して、句会やるよー」ってなって。
神野 飛行機の中で句会やったんだね。
高崎 おおー。
神野 俳句甲子園に出ようって話になってから出るまでにどのくらいあったの?
千倉 文芸部入部直後にそういう大会があるから出たいねって話してて、その中でメンバーも決めて、早い段階でもう決まってたような。
神野 大会に向けて、どんな用意をするの?
千倉 地方予選のお題が出るとみんなで決めて、ディベートの練習をずっとしてましたね。文芸部で文芸雑誌を夏までに作りあげなくちゃいけなくて、その詰めが俳句甲子園の直前だったんで、全部早めにしないと最後のしわ寄せがとんでもないことになる。だから、結構忙しかったです。
神野 そっかそっか、俳句甲子園だけやってるわけじゃないものね。
千倉 はい。
神野 高崎くんは、テレビで俳句甲子園を見てから「よしおれも出るぜ」って話になった訳だよね。思い立ってから大会まで、1年くらい時間があったのかな?
高崎 そうですね。
神野 その間はなにしてたの?一緒に出てくれるチームメイトを集めるのも大変だよね。
高崎 それは意外に早く集まって15人くらいになりました。
神野 多っ。
高崎 そこからは、俳句をやるということは句会をやらなきゃいけないんだ、ということで、素人の集団だったんですけど句会を重ねていって、夏井いつきさんの句会とかにも参加させてもらったり、外部の人を呼んで練習試合をしたり、そういう感じで過ぎていきました。準備としてはやっぱり、句会をやることが多かったですね。
神野 開成の俳句部はまさに日々句会をして日々俳句を作るっていう活動だったんだよね。
村越 句会は週3、吟行が月1。俳句甲子園が近づくと、毎日、ですね。1つの兼題で、一人100句は作ってると思います。
高崎 すごいな。
神野 5つ兼題があったら、500句ってことだよね。
村越 はい、500句は作ってますね、間違いなく。
神野 合宿とかもやるんだよね。
千倉 俳句嫌いになりそうなくらいですね・・・。
野口 苦しくなかったの?
村越 そりゃそのときは嫌な気分になることもありますよ。(笑)
神野 そうだよね。(笑)
村越 紗希さんは、俳句甲子園が好きでしたか?
神野 うーん、私は2年生のときに初めて大会に出て、結構つらかったのね。たとえば、良い句が出ても、なんか悪いところを言わなきゃいけないって雰囲気だったので。今ほどディベートもレベルが高くなかったから、みんなケンカしてるみたいな感じになることもあった。「なんでそんな句作るのか分かりません」みたいな(笑)。
村越 まさに「俳句ボクシング」、ですね。
神野 そうそう。(笑)相手の句のあらを探さなきゃいけないっていうのがやっぱりつらかったかな。でも、本当にいい句だと思ったから褒めたら「試合放棄だ」って言われて負けたりして。ま、今思えば、当時の私に「本当にいい句」に見えただけで、審査員の目から見れば、気になる点がたくさんあったから、「そこを指摘しない=俳句分かってない」って判断だったんだろうね。だから俳句はずっと続けてたんだけど、3年生のときに出るか出ないか、大会のあとしばらく迷ってて。で、もっと俳句のことを知れば、試合放棄なんて言われなくて済むのかな、相手の作品を悪く言うんじゃなくてこうしたらもっと良くなるって指摘することができるのかな、それなら建設的かな、って考えたのね。たぶん、今は全体的にそういう感じのディベートになってると思うけど。
村越 そうですね。昔に比べて正しく鑑賞しようっていう文化になってきていると思いますね。それは僕がいた3年間でも年々そういう空気になってきてるな、っていうのは感じました。
神野 出場する高校生の側は、ルールを変えることはできない訳だよね。じゃあ大会に利用されるだけじゃなくて、自分が大会に出て楽しむためにはいったいどうすればいいのか、って、2年生から3年生にかけてすごく考えた。
村越 ああー、それはすごいですね。
神野 俳句はもともと好きだったから俳句は嫌いにならなかったけど、なんかこのつらい気持ちをどうにか解決できないかなって思ってたなあ。
村越 ポジティブですね。(笑)
神野 そう、ポジティブなの。(笑)最終的にはなんか使命感のようなものまで感じちゃって。「この大会はこのままではいけない!頑張ればなんとかできるはずだ!」みたいな。(笑)
村越 高校生の頃からそんなにポジティブにとらえられるってすごいなあって。僕は、やるからには一生懸命やろうと思ってたし、やってるときは楽しかったんですけど、俳句甲子園そのものに関してはあんまり価値を見出してなくて。だから1年間あって俳句甲子園の前の3ヶ月くらいが兼題の句をひたすら書く時期になるんですけど、それ以外の9ヶ月が俳句楽しかったから、俳句を続けるモチベーションが保たれていたというのが大きいですね。自分の俳句はじめた当初の句を見てると、秋冬のほうが充実してるし。
高崎 あー、そうなんですね。
神野 高崎くんは?
高崎 自分もやっぱり夏の時期は俳句甲子園のこと思って作っちゃいますね。ここでわかれると思うんですよ、俳句が好きなのか、それとも俳句甲子園が好きなのか。
村越 そうだね、そのとおりだね。
高崎 俳句甲子園以外の季節でも俳句楽しいなって思える人は今でも俳句続けてる人で。そうじゃなくて他の季節になんで俳句やってるんだろって思う人は俳句甲子園が好きな人なんだなって。もちろん、両方ともベースとしては俳句甲子園が好きで、そこにはドラマがあるから、だと思うんですよ。・・・ってなんでるりさん苦笑いなんですか!
野口 苦笑いじゃないよ、ニッコリ!
高崎 恥ずかしいじゃないですか!
野口 ふふふ、続けてください。
高崎 その、俳句の話をいったん置いておくとすると、あのイベント自体にはすごいドラマがあって、高校時代の忘れられない夏をもらった、と思うんですよ。
野口 ふふふふ。
高崎 ちょ、今のは完全に苦笑ですよね。
野口 違うよ、ニコニコ!
神野 苦笑って言うよりは、キャー恥ずかしいみたいな感じだよね。(笑)
野口 そう、こういうフレーズ聞くと我慢できなくなっちゃうの。ふふふふ。(笑)
神野 高崎くんの喋ってるポーズも決まってるしね。(笑)
野口 ごめんごめん、続けて。
高崎 そういう意味では、俳句と俳句甲子園の関係性ってジレンマが続いてると思うんですけど。続ける人もいるしやめる人もいるわけで。
神野 高崎くんはどっちなの?
高崎 え、僕は今ここにいる時点で俳句が好き、ってことですけど。両方好きですけどね。今こうやって作ってる人は、俳句が好きなんじゃないですかね。はじめたきっかけは俳句甲子園だったけど、俳句の面白さはちゃんと感じ取って終われたし。そうじゃない人もたくさんいると思うけど。
村越 継続して俳句に関われる場があるっていう幸運はあると思いますね。
高崎 それはありますね。
(次週に続く)