月を見るためには一度倒れねば   小林千史

別に特段素晴らしい月夜でなくてもいいが、満月の迫力を思う方が凄みがある。
見上げれば月があるということを安心感としてではなく、
プレッシャーのように感じているようだ。
倒れる、ということは、体だけでなく、なにか精神的な崩れもあるだろう。
月と向かい合う自分を思い浮かべたときに、
今の私のままではまだ足りない、一度倒れなければ、という風な思いつめ方は、
すなわち月への真摯な思いの表れで、だからこそ美しく苦しい。

「エチュード」(『俳コレ』邑書林、2011)より。