飛び石のひとつが遠し秋の草  津川絵理子

いくつか投げた石が、ようやくひとつ遠くまで飛び、成功したにも関わらず、それが遠いと淋しがるのは、なんて勝手な思いだろう。けれどその奔放さが魅力でもある。遠くなる石も、近くに揺れる水辺の秋草もどちらも好きなのだ。ひとつが遠くまでいってしまったことで、今まで近場に沈んだ石の存在をすっかりわすれてしまった姿に、女心がよく見える。

句集『はじまりの樹』(ふらんす堂 2012年)より。