けふもまた白き日盛り流涕す   山口誓子  

「流涕」とは、激しく泣くこと。その激しさもどこか真っ白に思えるほど、
とても乾いているだだっ広い虚無を感じさせる。昨日も今日も、明日もきっと、空虚なのだ。
句に添えられている日付は、「昭和十九年七月十九日」。
日付からも分かるように、掲句は第2次世界大戦下において作られた句である。

実は掲句、全句集などには収録されていないものである。
第五句集『激浪』の初版に収録されたものだが、この句集は3版まであるのだ。
幻の初版本(青磁社、昭和19年)、初版本(青磁社、昭和21年)、改訂版(創元社、昭和23年)。
そして、この幻の初版本から初版本・改訂版に編みなおされる際、
全部で、53句(削除が14句、差し替えが39句)が失われてしまった。(掲句は幻の初版本より)
これらの句は、すべて戦争関連俳句であった。

戸恒東人著『誓子 ―わがこころの帆』(本阿弥書店、2011)より。

この本では、ゆたかな資料と緊密な分析で、この誓子の『激浪』の謎について迫っている。