耳うごくくりくり坊主春が来た  陽山道子

坊主頭なので、耳の動きもよく見える。「くりくり」は坊主の形容なのだが、「耳うごくくりくり」と続くと、耳の動きを形容しているようにも感じられるから楽しい。春が来るのだから、このくらい楽しくていいのだ。

第一句集『おーい雲』(ふらんす堂・2012年12月)より。世界とは楽しみに満ちた幸福なものだと私も信じたくなる向日性の俳句たち。

春キャベツちぎって蒸して明日は晴
大皿に転がるパセリ晩夏の夜
晩鐘やトマト三つを紙袋
秋の海たぷんとわたし思案中
綿虫に逃げる力や茜雲

晩鐘の句は、強く抱けば裂けてしまうトマトを紙袋に柔らかく抱いて帰る手元の心もとなさに、詩情を感じた。夕日もまたトマトのように深いくれない。